放電加工の速度を極限まで高める最新技術とは?
2024/08/07
放電加工は多くの導電性材料に対して、硬度に関係なく非回転での加工が可能なため、ものづくり現場でうまく活用出来れば便利な機械なんだろうけど、うちは機械加工屋だから、電気のことはよく判らないので十分な活用が出来ていないなあ、とお嘆きの方が多くおられます。誰に聞いても放電は不良発生リスクが高くとにかく遅い!と言われ、加工速度の向上は、製造業の効率化において必須命題です。そこで今回は株式会社橋川製作所が独自に開発した放電加工技術を基に、その速度を極限にまで高めるための革新的なアプローチと具体的な方法について詳しく解説します。
目次
放電加工のメカニズムを理解した上で 加工速度を飛躍的に向上させる方法
放電加工のメカニズム
放電加工(Electrical Discharge Machining, EDM)は、導電性の材料を高精度に加工するための技術です。この技術の革新は、主に電極と工作物の間で発生する放電の特性を最適化することで達成されます。放電加工において、高精度を維持しながら加工速度を向上させることは大変重要な課題です。それにはまず、放電加工の基本原理を理解することが不可欠です。
放電加工は、工作物が設置された炭化水素基の専用放電加工油中で、電圧を印加した電極をそっと工作物に近付けると、どこか1箇所で絶縁破壊が起こり、その場所に一気に電子なだれ現象が生じ、廻りの加工液が急激に熱膨張して気化爆発が誘発され、溶融しかけた材料表層部が飛散除去するというメカニズムでたった1発の放電現象が完結します。
現象そのものは、ダイナマイトを仕掛けて発破させ、崩落させている光景をイメージすると判り易いですが、それではスケール感がかけ離れ過ぎていますので、川に入ると小さなドクターフィッシュの群れが足に寄って来て、黒だかりとなって足の古くなった角質を食べているイメージの方が近いと思います。痛くもかゆくもないので食べられている感じは全く無いのですが、大群が大好物の人間の古くなった角質を食べ尽くしてくれるので、トルコではセラピー効果が認められ治療に用いられているくらいです。
放電加工も、母材にダメージを与えることなく精密加工が出来るようになったのは、マイクロ秒単位で放電のON、OFFを高速スイッチング制御しながらパルス波形を発生させて、毎秒数千から数万発もの人工的な落雷を生じさせることが可能なハイテク技術が導入されるようになってからです。
放電加工というと、多くの方は材料を溶かしていると思っていますが実はそうではありません。溶かしてしまうと飛散する際にどこかに溶着していまい、加工の安定性が損なわれ、継続的な精密加工が出来なくなってしまいます。溶けて無くなってはいないのです。
学術的には、過渡アーク放電と言いまして、溶け始めようとする直前でONスイッチを遮断すると、極間に介在する加工液の気化膨張時の挙動で急冷され、気化爆発によって引きちぎられた断片が飛散除去するといったイメージの方が理解しやすいと思います。
溶けて無くなるのはごくわずかで、引きちぎられた断片が極間に介在する量は7割以上にも達するので、この加工屑をいかにして排除するかが、放電加工の加工速度を劇的に向上させるキーポイントとなります。
このプロセスで重要なのは、電極と工作物間のギャップを適切に制御することです。ギャップが適切に制御されないと加工精度が低下し、速度も遅くなります。サーボ基準電圧の設定が一番のキモとなります。
次に、最適な放電条件を設定することが求められます。特にパルス電流のパラメータ(電圧、電流、パルス幅など)を微調整することで、加工速度と精度のバランスを取ることが可能です。
高精度を維持しながら加工速度を向上させるコツ
橋川製作所では今から30年前の1994年に、精度を出すためには放電ギャップが小さく、電極のシャープエッジ部の損傷ダメージが少ない条件が必要不可欠であると考え、当時は吸引壺上にワークをセットし、下穴吸引法で加工屑を吸引しながら微小モジュールのヘリカルギアの貫通加工のみに用いられていた加工電圧100V以下の定電圧条件を、液処理なしの汎用の底付き加工でも適用できるよう実験研究を重ねていました。
しかし中々思うような成果は得られず、ある日、気分転換に銅からグラファイト電極に代えて、120Vの電圧でOFFタイムの休止時間をどんどん短く詰めていくと、ONタイムの1/10の設定値でもバリバリと安定して加工が進む状態が維持できるようになったので、思い切ってジャンプをやめた結果、何と無噴流ノージャンプでも50mm角のグラファイト電極で深さ200mmまで加工効率を落とすことなく一気に到達可能な条件を確立することが出来ました。
早速、岡山大学の宇野義幸教授に報告した所、是非見せて欲しいとのことで広島まで来社して頂き、その後、広島県立西部工業技術センターさんも交えた産学官共同研究事業に発展させ1995年に精密工学会と電気加工学会で、『低電圧高効率放電加工法』として学会発表させて頂きました。
先程の放電加工のメカニズムでご紹介させて頂いた通り、低電圧設定でサーボ基準電圧も最小設定値に近付けると、極間距離は極めて小さく、かつ、加工効率をデューティー・ファクター90%の極限値にまで高めた結果、蟹が泡をブクブク吹くが如く小さな気泡が極間に大量に発生して、今日流行りのウルトラファインバブル状態となって、加工屑の排出効果が促進されることで安定加工が図られることが明らかとなりました。
銅電極でも同様の設定は可能ですが、グラファイト電極と違って、荒加工時にノージャンプで行うと、熱膨張により設定値よりも深く入り過ぎる危険性がありますので、タイミング・ジャンプさせることで問題を回避するよう心がけて下さい。
下穴のない無垢な材料に凹穴を加工する場合に効果は絶大ですが、圧が抜けてしまうチョン掛け加工のような場合は効果は半減してしまいますが、ジャンプ設定を適切に行えば『定電圧高効率放電加工法』の基本設定はそのまま使えますので、是非有効活用して頂き、放電加工の面白さを体感して頂ければ幸いです。
形状や深さに適した電極材料の選定
放電加工において加工速度を極限まで高めるためには、適切な電極材料選定が不可欠です。
金属系の工作物だと電極材は純銅が理想ですが、大面積になると重量の問題が生じますので、グラファイトにどのサイズから切り替えるかは、加工中のガス臭や加工液の黒化問題を鑑みた上での総合判断となりますので、各社まちまちです。
小面積の場合は、電極サイズに最も適した電極材料を選定することです。熱的加工法ですから、局部的な熱の偏在により電極に反り歪が生じてしまうと、品質精度が損なわれ、加工時間も大幅に増大することになりますので、先程、大面積以外の汎用の放電加工の最適電極材は純銅とお話させて頂きましたが、肉厚が3mm以下の薄板では、反りや歪が生じる可能性の高い純銅ではなく、グラファイトや銅タングステン合金のような耐熱性素材への切り換え検討が必要となります。ちなみに橋川製作所では使用限界に達した切削用の超硬合金製工具を薄リブ用の放電加工用電極としてリユースしており、ワイヤカット放電加工で薄リブ形状を成形しますが、荒加工時には必ず反りが生じていますので、2nd Cut条件で左右の加工速度にばらつきが無いかをしっかり見極め、左右両面が均一速度になるまで、3rd Cut条件に落とさず、加工能力のある2nd Cut条件で寄せ加工を繰り返しています。
このように、加工開始前から、熱影響による電極の反り歪の発生リスクを予測した上で、最適電極材料を選定し、放電加工条件も、その電極材料に最も適した条件を選定することで、加工速度が向上し、品質精度も満足できる結果が得られるようにまります。
超硬合金や導電性セラミックス材のような高融点材料を放電加工する場合は、高純度のグラファイトや、銅を含侵させた銅グラファイトも選択肢のひとつとして加わり、他にも銅タングステンや超硬合金を選択するケースもあります。これらの材料と加工条件の最適化により、より高速かつ精度の高い加工を実現できます。
最新の設備機器とソフトの導入検討
放電加工の速度を向上させるためには、最新の設備とソフトの導入検討も不可欠です。これらの機器は、従来の加工方法と比較して、より細かい設定やリアルタイム制御が可能であり、加工精度を維持しながら速度を最大化することができます。さらに、AI技術を活用した最適化アルゴリズムを導入することで、加工プロセス全体の効率を大幅に向上させることができます。これにより、加工時間の短縮やコスト削減が実現し、製造業の競争力を高めることができます。また、既存の放電加工機の制御ソフトウェアのアップデートや最適化も不可欠です。最新のソフトウェアは、加工条件のリアルタイムモニタリングやフィードバック制御をサポートし、常に最適な条件での加工を実現します。これにより、加工時間の短縮とともに高精度な成果を得ることができます。
AIの進化に関する最新情報
ANI・AGI・ASIという言葉を聞いたことがありますか?
今後のAIの進化の過程を予測する上では、この3つの単語は知っておいた方が良いでので、簡単に、それぞれがどのようなものかを解説します。
■ANI(狭義の人工知能: Artificial Narrow Intelligence)
ANIは、特定の目的やタスクにのみ特化した人工知能です。例えば、音声認識、画像認識、チェスの対戦、言語翻訳などが挙げられます。これらは特定タスクにおいて非常に優れていますが
他のタスクには適応できません。
■AGI(汎用人工知能: Artificial General Intelligence)
AGIは、人間と同じように学習して理解し、問題を解決する能力を持つ人工知能です。これが実現すれば、異なる分野の知識を組み合わせて新しい問題に対処することができるようになります。現在の技術ではまだ実現されていませんが、2025年に出来る可能性もあると示唆されています。
■ASI(超人工知能: Artificial Superintelligence)
ASIは、AGIを超えて人間の知能を遥かに超える能力を持つ人工知能です。このレベルのAIは、自らの知識を高速に増強し、自分自身を改良する能力を持つとされています。孫さんが株主総会でASIを実現させたいと言っています。
すごく簡単に纏めると、
ANI: 特定のタスクに特化
AGI: 幅広いタスクをこなす
ASI: 人間を超える知能
となります。
シンギュラリティとは、ASIの領域になります。
放電加工の速度向上技術とその実例
櫛刃のようなマルチ加工
工作物に直線的な切れ込みであるスロットを入れたい場合は、スロッター加工機という専用機を用いますが、同じ動作を放電加工でさせても勝ち目はないので、当社では、一列に横10個、縦に10個の合計100個を等ピッチで並べてセットが可能な精密治具パレットを2セット製作し、別途10か所同時に放電加工が可能な櫛刃状の電極をグラファイトで荒・仕上各3セット製作し、キー溝加工のマルチ工法による量産加工を実施した。
加工が終了すると、既にワークが100個セットされたパレット交換をする事で生産効率を向上させ、使用した電極の消耗部をワイヤカット放電加工機でカットして、効率的に使う工夫をすることで、大幅なコストダウンと短納期対応が可能となった。
微小面積の速度UPを図る工夫
放電加工は加工対象となる断面積が小さくなると、面積効果という概念が働いて、断面積に応じて投入エネルギーを絞っていかないと、過電流となって消耗が増大してしまいます。
面積効果の概念とは、10mm角の銅電極の断面積は100m㎡で投入可能な平均加工電流値は10~14A(アンペア)です。 5mm角電極の断面積は25m㎡なので2.5~3.5Aとなり、更に小さくなると、2.5mm角電極の断面積は6.25m㎡なので0.6~0.9Aとなる。
投入エネルギーが小さくなると、加工速度は加速度的に低下してしまい、具体的には、10mm角電極での加工速度を1とすると、7mm角電極で1/3、6mm角電極で1/5、5mm角電極で1/36となるので、それ以下のサイズは莫大な時間を要することを覚悟しなければならない。
そこで検討したのが、先程の櫛刃電極によるマルチ加工法の適用である。具体的には、工作物と同じ材質で同じ高さの捨て加工用ダミーワークを用意し、そのワークにも同時に放電させることで、加工対象断面積を50m㎡以上は確保し、極力平均加工電流値を5A以上はキープしようとする試みである。
グラファイト電極の積極活用
グラファイト電極は軽量で耐熱性が高く、反り歪が生じ難い材料なので、放電加工条件のチューニングノウハウを学んで頂き、是非もっと積極的に活用して頂きたいと思っています。
これまでお伝えさせてきた通り、放電加工の基本動作は、工具電極を液中で上下動させるポンピング効果で、極間に溜まった加工屑の排除を促すことが多いですが、その動きに惑わされて、ついつい、電極が下がった時に放電が行われていると勘違いされている方が多いのですが、わずか1秒の間に平均加工電流35Aの荒加工条件で平均2千発の落雷が、18Aの条件で3千発、10Aの条件で6千発、5Aの条件で1万発もの落雷を起こしておりそのわずか1秒の間に落雷回数と同じサーボ動作、すなわち落雷直後にサーボバックし、絶縁回復したら電極をそっと近付ける前身運動を繰り返すことで極間距離を最適制御しながら放電加工が可能な安定状態を保っている。
仕上げ加工では更に放電ONタイムが短くなるので、放電頻度は毎秒数万発という絨毯爆撃レベルを凌駕するとてつもない超ハイレベルなサーボコントロールをしてくれているので、放電加工は遅い!と思われているのは心外で、この文章を読まれた方は、是非放電加工の感動的な仕事量にあっぱれ!を上げると同時に、関係者の方々にもっと有効活用できるよう進言して頂ければ幸いです。
高速加工がもたらす競争優位性
放電加工の高速化は、製造業における大きな競争優位性を生み出します。まず第一に、生産効率が飛躍的に向上することで、短期間で大量の製品を市場に供給できる点が挙げられます。これにより、納期の短縮が実現し、顧客満足度の向上にも繋がります。さらに、高速加工技術は、コスト削減にも直結します。加工時間の短縮は、労働時間の削減やエネルギー消費の低減に繋がり、全体的な製造コストを抑えることが可能となります。橋川製作所が提供する最新の放電加工技術は、これらのメリットを最大限に引き出すための革新的なアプローチを提供しています。また、高速でありながら高精度な加工が可能であるため、品質を犠牲にすることなく生産性を高めることができます。これにより、他社との差別化を図り、市場での競争力を強化することが可能となります。
橋川製作所の革命的な放電加工技術で得られる速度のメリット
速度向上による生産性の飛躍的向上
放電加工技術において、速度の向上は生産性の飛躍的向上をもたらします。株式会社橋川製作所が開発した最新技術は、加工プロセスを最適化し、従来の速度を大幅に上回ることを可能にしました。これにより、複雑な形状や高精度を求められる部品の製造も迅速に行うことができます。例えば、同社の新しい放電加工機は、電極の摩耗を最小限に抑えながら、効率的な放電を実現することで、加工速度を大幅に向上させました。この技術革新により、製造業界全体で生産性が向上し、多くの企業が競争力を維持するための重要な一歩を踏み出しています。次に、この技術的な背景について詳しく見ていきましょう。
短納期実現のための技術的背景
短納期を実現するためには、放電加工技術の速度向上が不可欠です。株式会社橋川製作所が採用する最新の技術では、加工中の電極と材料の間で発生する放電現象を詳細に解析し、その結果を基に最適な加工条件を設定します。これにより、加工速度だけでなく、加工精度も保ちながら、納期を大幅に短縮することが可能となりました。この技術的な進展は、複数の要因によって支えられています。例えば、高速で安定した放電を可能にするための新素材の導入や、放電加工機の制御システムの高度化などです。これらの技術的背景により、放電加工がさらに進化し、迅速かつ高品質な製品供給が実現しています。
高品質と高速加工の両立を実現する技術
放電加工において、加工速度と品質の両立は長年の課題でした。株式会社橋川製作所では、この問題を解決するために最新技術を導入し、高品質と高速加工の融合を実現しました。特に、最新の放電加工機は、加工速度を劇的に向上させるだけでなく、微細な加工精度を保つことができます。これにより、高付加価値の製品を短期間で提供することが可能となり、製造業の生産性向上に貢献しています。また、放電加工の制御システムが改良されたことで、加工中の電流や電圧を最適化し、均一な加工結果を得ることができます。この技術は、製品の品質を向上させるだけでなく、材料の無駄を減らし、コスト削減にも寄与しています。
橋川製作所の技術がもたらす具体的な成果
株式会社橋川製作所の放電加工技術は、多くの実績と信頼を築いてきました。例えば、自動車部品の製造において、高精度と短納期を両立させることが評価されています。特に、エンジン部品やトランスミッション部品の微細加工において、その優れた技術が発揮されています。加工速度の向上により、生産ラインの効率が飛躍的に向上し、納期も大幅に短縮されました。また、航空機産業でも橋川製作所の放電加工技術が活用されており、高強度で軽量な部品の製造が可能となっています。これにより、航空機の性能向上にも寄与しています。さらに、医療機器の製造においても、その高精度な加工技術が幅広く応用され、安全性と信頼性の高い製品を提供しています。
業界内での技術的優位性の確立
株式会社橋川製作所は放電加工技術において、他社に先駆けて先進的な技術を導入し、その技術的優位性を確立しています。同社の最新技術は、加工速度の大幅な向上を実現し、競合他社を圧倒する性能を発揮しています。特に、微細加工や高精度な作業において、その優位性は顕著であり、業界内での評価も高まっています。これにより、橋川製作所は国内外での需要に応え、信頼性の高いパートナーとしての地位を確立しています。放電加工技術の進化を続ける同社の取り組みは、業界全体においても大きな影響を与えていると言えるでしょう。
顧客満足度向上につながる取り組み
橋川製作所は放電加工技術の革新を通じて、顧客満足度の向上にも注力しています。高速かつ高精度な加工技術を駆使することで、短納期での納品が可能となり、顧客のニーズに迅速に応えることができます。また、加工品質の向上により、製品の信頼性も高まり、長期的な顧客関係の構築に寄与しています。さらに、顧客からのフィードバックを積極的に取り入れ、サービスの改善を継続的に行う姿勢が、顧客からの高評価を得る要因となっています。これからも橋川製作所は、顧客満足度の向上を目指し、技術革新とサービス品質の両立を追求していくことでしょう。次回のブログ記事では、さらなる技術革新に関する情報をお届けしますので、どうぞご期待ください。